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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)335号 判決 1999年5月19日

大阪府守口市東郷通2丁目5番5号

原告

有限会社マルカツ

代表者取締役

岩本吉博

訴訟代理人弁護士

村林隆一

岩坪哲

千葉県柏市関場町1番10号

被告

株式会社紀和商会

代表者代表取締役

田中肇

訴訟代理人弁護士

野上邦五郎

杉本進介

冨永博之

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成6年審判第14091号事件について、平成10年9月7日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2  当事者間に争いのない事実等

1  原告は、「スーパー7バーキン」の文字を横書きしてなり、第12類「自動車用部品、その他本類に属する商品」(平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表の区分による。以下同じ。)を指定商品とする登録第2533405号商標(平成元年9月26日登録出願、平成4年5月8日出願公告、平成5年4月28日設定登録、以下「本件商標」という。)の商標権者である。

本件商標は、株式会社クライゼスジークが登録出願し、設定登録を受けたものであり、その後、原告が商標権の譲渡を受け、平成9年6月9日にその移転の登録を経た。

被告は、平成6年8月19日に、本件商標につき登録無効の審判請求をした。

特許庁は、同請求を平成6年審判第14091号事件として審理したうえ、平成10年9月7日に「登録第2533405号商標の登録を無効とする。」との審決をし、その審決の謄本は、同月28日、原告に送達された。

(審決謄本の送達日につき弁論の全趣旨、その余は争いがない。)

2  審決の理由の要旨

審決は、別添審決書写し記載のとおり、「スーパーセブン」の片仮名文字を横書きしてなり、第12類「スポーツカー」を指定商品とする登録第2050176号商標(商標権者ケーターハム カー セールス アンド コーチワークス リミテッド(以下「ケーターハム社」という。)、昭和59年6月7日登録出願、昭和62年11月6日出願公告、昭和63年5月26日設定登録、以下「引用商標」という。)が、本件商標の登録出願当時、ケーターハム社の商標として著名であったところ、本件商標をその指定商品に使用した場合、取引者・需要者は、引用商標と称呼を同じくする前半部分の「スーパー7」に着目し、該商品がケーターハム社又は同社と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように、商品の出所について混同を生じるおそれがあるから、本件商標は、商標法4条1項15号に違反して登録されたものであり、同法46条1項の規定により、その登録を無効とすべきものであるとした。(争いがない。)

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決は、本件商標につき誤った要部認定をし(取消事由1)、引用商標のケーターハム社の商標としての著名性の判断を誤り(取消事由2)、さらに、本件商標につき誤認混同のおそれの判断を誤った(取消事由3)ものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(要部認定の誤り)

審決は、「本件商標は、・・・全体として特定の熟語を構成しているものとは理解し難く、かつ、『スーパー7』と『バーキン』とが常に一体不可分のものとして把握すべき必然性も見出せないものである。そうすると、・・・被請求人(注、原告)が本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、・・・前半部分の『スーパー7』に着目し」(審決書9頁16行~10頁1行)と認定判断したが、それは誤りである。

商標の分離観察(要部抽出)が許されるか否かは、その一部が他の部分に比較して大書され、特に看者の目を惹く等の事情により、当該商標の構成態様上、看者によって分離して認識・把握されるのが自然であると解されるかどうかによって決せられるというべきところ、本件商標は、「スーパー7バーキン」の各文字を、ゴチック体による同字体で、かつ、同大・同間隔で横書きしてなるものであり、まとまりよく一体不可分に構成されたものであって、これを前半部分の「スーパー7」と後半部分の「バーキン」とに分離して把握すべき必然性は存在しない。また、本件商標は、商品の品質等の誇称表示として普通に用いられる「スーパー」の文字と、単なる数字である「7」と特定の観念を生じない「バーキン」の文字とを結合した造語からなるものであるところ、このような造語が特定の熟語を構成しているかどうかを論ずることは無意味である。

したがって、審決が本件商標から前半部分の「スーパー7」のみを抽出し、取引者・需要者がこの部分に着目すると認定したことは誤りである。

2  取消事由2(引用商標の著名性の判断の誤り)

審決は、「引用商標は、『スポーツカー』に使用された結果、本件商標の登録出願時である平成1年9月26日には、英国ケーターハム社の商標として、取引者、需要者に既に広く認識され、著名になっていたものと認められる。」(審決書9頁12~15行)と認定したが、それは誤りである。

「スーパーセブン」は、元来英国ロータス社が製造するスポーツカーの商標として使用され、我が国において需要者に知られていたものである。ロータス社は、1973年に「スーパーセブン」の生産を中止したが、現在、ロータス社の「スーパーセブン」に由来する同形状のスポーツカーを製造・販売する会社が世界中に存在する。ケーターハム社もその1つであるにすぎず、本件商標の出願当時、引用商標がケーターハム社の商標として著名であった事実はない。

被告は、被告を原告とし、原告を被告とする東京地方裁判所平成3年(ワ)第13300号事件(以下「別件事件」という。)において、昭和59年から平成元年までの間に、被告が我が国におけるケーターハム社の販売代理店として販売した引用商標が付されたスポーツカーの台数を合計269台と主張しているところ、仮にこの主張に誤りがないとしても、日本における引用商標が付されたスポーツカーの販売実績はこの程度であるにすぎないのであるから、引用商標がケーターハム社の商標として著名になり得ようはずがない。

のみならず、審決が引用商標の著名性を認定するための証拠として用いた「CAR GRAPHIC」誌昭和55年1月号、同年6月号、昭和56年2月号、同年12月号、昭和57年1月号、同年5月号、昭和58年3月号、同年10月号、昭和59年4月号、同年9月号、昭和60年2月号、同年10月号、昭和61年1月号、同年11月号、昭和62年6月号、同年12月号、昭和63年3月号、同年9月号(審決甲第5~22号証、本訴乙第1~18号証)に被告が掲載した広告は、「SUPER 7 CATERHAM」の文字を書してなり、「SUPER」と「7」の間、及び「7」と「CATERHAM」の間を僅かに離間させているほかは同字体、同大で一連に記載した標章がもっとも人目を惹く態様で大書されており、「スーパーセブン」等の文字は、あってもごく小さく表示されているにすぎないから、仮にこの広告によってケーターハム社の標章で著名になったものがあったとしても、それは「SUPER 7 CATERHAM」であって、引用商標ではない。したがって、この広告からも、引用商標がケーターハム社の商標として著名であったと認定することはできないのである。

3  取消事由3(誤認混同のおそれの判断の誤り)

審決は、「被請求人(注、原告)が本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、・・・該商品がケーターハム社又は同社と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生ずるおそれがある」(審決書9頁23行~10頁4行)と判断したが、それは誤りである。

すなわち、上記のとおり、ロータス社の「スーパーセブン」に由来するスポーツカーを製造・販売する会社は世界中に存在し、南アフリカのバーキン社もその1つであるところ、原告は、昭和63年にバーキン社との間で、その製造・販売に係る「バーキン7」の商標の付されたスポーツカーにつき輸入販売契約を締結して、日本国内への輸入販売を開始し、同時に各自動車雑誌に「バーキン7」の商標の付されたスポーツカーの広告を掲載してその宣伝を行ってきた結果、本件商標の出願当時には、「バーキン7」は原告又はバーキン社を出所とするスポーツカーの商標として、取引者・需要者に周知となっていた。そして、「バーキン7」との商標の構成のうち、特に自他識別力を有する部分が「バーキン」であることは明らかである。

しかして、本件商標は、かかる「バーキン7」との商標の構成のうち、「バーキン」と「7」とを入れ替え、これに誇称表示である「スーパー」を付した態様であり、上記取引の実情等を踏まえれば、その要部が「バーキン」であることが明らかであるから、本件商標に接したスポーツカーの取引者・需要者が、原告又はバーキン社を想起するものと解するのが自然であり、ケーターハム社を想起すると解すべき根拠は全く存在しない。

第4  被告の反論の要点

審決の認定・判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。

1  取消事由1(要部認定の誤り)について

原告は、審決が本件商標から前半部分の「スーパー7」のみを抽出し、取引者・需要者がこの部分に着目すると認定したことは誤りであると主張する。

しかし、原告は、ケーターハム社が製造・販売する「スーパーセブン」の商標が付されたスポーツカーと形状が酷似するスポーツカーをバーキン社から輸入し、「バーキンセブン」との商標を付して販売していたものであるが、該スポーツカーがあたかもロータス社が「スーパーセブン」の標章を付して製造・販売していたスポーツカーの正統モデルであり、その生産が再開されたかのような広告を自動車雑誌に掲載して宣伝を行っていたものであり、原告がロータス社の「スーパーセブン」を意識していたことは明白であって、かかる原告の一連の行為に照らして、審決の上記認定に誤りがないことは明らかである。

2  取消事由2(引用商標の著名性の判断の誤り)について

原告は、被告の広告に「SUPER 7 CATERHAM」と商品表示が記載されているにすぎないとして、引用商標がケーターハム社の商標として著名であったと認定することはできないと主張するが、「CATERHAM」は単にケーターハム社の名称であり、また、該広告には「スーパーセブン」の文字もあるから、取引者・需要者が「SUPER 7」の文字部分に着目することは明らかであり、引用商標がケーターハム社の商標として著名であったとの審決の認定に何ら誤りはない。

3  取消事由3(誤認混同のおそれの判断の誤り)について

原告は、本件商標に接したスポーツカーの取引者・需要者が、原告又はバーキン社を想起するものと解するのが自然であり、ケーターハム社又は同社と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるとの誤認混同が生じるとした審決の判断が誤りであると主張する。しかし、上記のとおり、本件商標に接した取引者・需要者が「スーパー7」の部分に着目することが明らかであり、また、原告もかかる効果を期待していたものである。そうすると、該取引者・需要者に、ケーターハム社又は同社と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるとの誤認混同が生じることも明白であって、その旨の審決の判断に何ら誤りはない。

第5  当裁判所の判断

1  取消事由2(引用商標の著名性の判断の誤り)について便宜、取消事由2から判断する。

昭和60年6月15日初版発行のデニス・オーテンバーガー著「LOTUS SEVEN スポーツカーの原点」(甲第19号証)30~38頁、118~125頁及び129~133頁、並びに平成3年5月1日初版発行の「I LOVE SEVEN」(甲第20号証)73~79頁及び116~126頁によれば、英国のコーリン・チャップマンの経営するロータス社は、1957年に小型軽量のスポーツカー「セブン」を完成させて、1958年からその量産を開始したこと、当初生産された3タイプの「セブン」のうち「セブンC」が特に傑出しており、「スーパーセブン」と呼ばれたこと、「セブン」は名車として愛好者の人気を得て、ロータス社は、シリーズ1のモデルからシリーズ4のモデルまで生産を続け、それに伴って「スーパーセブン」と呼ばれるものにも新たなタイプが加わったが、ロータス社は、1973年(昭和48年)にその生産を中止したこと、ロータス社が「セブン」の生産を中止した際、同車のディーラーの1社であったケーターハム社が、ロータス社との契約に基づき、同車の生産を承継したこと、ケーターハム社は、現在に至るまで「スーパーセブン」を含む「セブン」の生産を続けているが、元来がマニアックな愛好者を対象とした趣味性の強いスポーツカーであって実用性に極めて乏しく、その生産台数は、昭和54年当時においても年間150台程度であったこと、なお、アルゼンチン、スペイン、ニュージーランドにおいて、ロータス社又はケーターハム社の許諾の下に「セブン」のレプリカ又は改造車が製造されたことがあること、そして、現在、フランス、南アフリカ(バーキン社)、オランダ、英国(ウエストフィールド社)において、ケーターハム社とは別に、「セブン」のレプリカ又は同型車が生産されていること、以上の事実が認められる。

また、商標公報(乙第25号証)及び商標登録原簿写し(乙第26号証)によれば、ケーターハム社は、昭和59年6月7日に引用商標の登録出願をし、昭和62年11月6日の出願公告を経て、昭和63年5月26日にその設定登録を得たこと、被告は、平成元年11月7日にケーターハム社から引用商標の専用使用権の設定を受けたこと(平成2年6月11日登録)が認められ、さらに、「CAR GRAPHIC」誌昭和55年1月号、同年6月号、昭和56年2月号、同年12月号、昭和57年1月号、同年5月号、昭和58年3月号、同年10月号、昭和59年4月号、同年9月号、昭和60年2月号、同年10月号、昭和61年1月号、同年11月号、昭和62年6月号、同年12月号、昭和63年3月号、同年9月号(乙第1~18号証)によれば、被告は、昭和55年1月以前からケーターハム社の日本総代理店として、ケーターハム社の製造する「スーパーセブン」を日本国内で販売しており、「CAR GRAPHIC」誌の上記各号に同車の広告を掲載したことが認められる。

そして、以上の事実関係を総合すれば、本件商標の登録出願(平成元年9月26日)当時、「スーパーセブン」の片仮名文字を横書きしてなる引用商標は、スポーツカーの取引者・需要者の間で、ケーターハム社の商標として広く認識され、著名になっていたものと認めることができる。

原告は、ロータス社の「スーパーセブン」に由来する同形状のスポーツカーを製造・販売する会社が世界中にあり、ケーターハム社もその1つであるにすぎないこと、別件事件における被告の主張によっても、被告の昭和59年から平成元年までの間の引用商標を付したスポーツカーの販売実績が269台にすぎないこと、被告が「CAR GRAPHIC」誌前示各号に掲載した前示広告には、「SUPER 7 CATERHAM」の文字を書してなる標章が大書されており、該広告によって著名になったケーターハム社の標章があったとしても、それは「SUPER 7 CATERHAM」であって、引用商標ではないことを根拠として挙げて、本件商標の出願当時、引用商標がケーターハム社の商標として著名であった事実はないと主張する。

しかしながら、現在、ケーターハム社とは別に、「セブン」のレプリカ又は同型車を生産する会社が、フランス、南アフリカ、オランダ、英国等に存在していることは前示認定のとおりであるが、ケーターハム社が、1973年(昭和48年)のロータス社の「セブン」生産の中止の際に、ロータス社との契約に基づき同車の生産を承継し、現在までその製造を続けていることも前示認定のとおりであって、このことにより、前示生産承継時から16年後である本件商標の登録出願当時においては、スポーツカーの取引者・需要者の間で、ケーターハム社が「セブン」の製造の直接の承継者として認識され(そのことは、前掲「LOTUS SEVEN スポーツカーの原点」(甲第19号証)118~125頁及び「I LOVE SEVEN」(甲第20号証)79頁の各記載からも窺われるところである。)、ひいて、「セブン」又は「スーパーセブン」の製造会社としてロータス社とともに著名であったことが推認されるから、ケーターハム社をその余の「セブン」のレプリカ又は同型車の製造会社と同列に論じることはできない。また、別件事件における被告(該事件の原告)の平成6年12月12日付準備書面(甲第32号証)に、昭和59年から平成元年までの間に、被告が我が国において販売した引用商標が付されたスポーツカーの台数が合計269台である旨が記載されているが、前示認定のとおり、「スーパーセブン」を含む「セブン」がマニアックな愛好者を対象とした趣味性の強いスポーツカーであって実用性に極めて乏しく、ケーターハム社の生産台数でさえ、昭和54年当時においては年間150台程度であったことに鑑みれば、前示被告の我が国における販売台数は、その数が過少とはいえず、本件商標の出願当時、スポーツカーの取引者・需要者の間で、引用商標がケーターハム社の商標として著名であったとの前示認定を左右するものではない。さらに、「CAR GRAPHIC」誌前示各号に掲載された被告の広告のうち、昭和61年1月号に掲載されたもの以外のもの(乙第1~12号証、第14~18号証)には、「SUPER 7 CATERHAM」の文字を書してなる標章が他の文字と比べ大きく記載されているが、昭和55年1月号(乙第1号証)掲載の広告を除いては、同一広告中に「スーパーセブン」、「スーパー7」、「super 7」等の商標の表示があるほか、「スーパーセブン」が元来はロータス社が製造するスポーツカーの商標として我が国において需要者に和られていたこと(原告の自認するところである。)、及びケーターハム社がロータス社の生産中止の際に「スーパーセブン」を含む「セブン」の生産を承継した前示事実関係に照らすと、該広告によって、スポーツカーの取引者・需要者の間で、「SUPER 7 CATERHAM」を一体とした標章が著名となったものと認めることはできず、むしろ、該広告の「SUPER 7 CATERHAM」の表示は、引用商標をケーターハム社の商標として著名とすることに与ったものと認めるのが相当である。

したがって、原告の前示各主張はいずれも採用することができず、「引用商標は、・・・本件商標の登録出願時である平成1年9月26日には、英国ケーターハム社の商標として、取引者、需要者に既に広く認識され、著名になっていたものと認められる。」とした審決の認定に誤りはない。

2  取消事由1(要部認定の誤り)及び取消事由3(誤認混同のおそれの判断の誤り)について

(1)  商標公報(甲第2号証)及び商標登録原簿写し(甲第3号証)によれば、本件商標は、「スーパー7バーキン」の片仮名文字及び数字を、ゴチック体による同字体で同大・同間隔に横書きしてなるものであることが認められる。

しかしながら、本件商標は、「スーパーセブンバーキン」と称呼することが自然であると認められるところ、前示認定のとおり、「スーパーセブン」が元来はロータス社が製造するスポーツカーの商標として、我が国において需要者に知られていたこと、及び「スーパーセブン」の片仮名文字を書してなる引用商標が、スポーツカーの取引者・需要者の間で、ケーターハム社の商標として広く認識され、著名になっていたことに照らせば、本件商標がその指定商品に使用された場合に、これに接する取引者・需要者は、たとえ、外観上は同字体で同大・同間隔の文字を書してなるものであっても、ロータス社がかつて製造していたスポーツカーの商標として、またケーターハム社の商標として周知著名な「スーパーセブン」と称呼を同じくする「スーパー7」の部分と、その余の「バーキン」の部分とに分離して、認識把握したうえ、その「スーパー7」の部分に着目することが少なくないものと認められる。

したがって、「本件商標は、・・・全体として特定の熟語を構成しているものとは理解し難く、かつ、『スーパー7』と『バーキン』とが常に一体不可分のものとして把握すべき必然性も見出せないものである。そうすると、・・・被請求人(注、原告)が本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、・・・前半部分の『スーパー7』に着目し」とした審決は、措辞に多少適切を欠く点があるとしても、その認定判断に誤りはない。

(2)  また、そのように、本件商標がその指定商品に使用された場合に、これに接する取引者・需要者が、ケーターハム社の商標として広く認識され、著名になっていた引用商標と称呼を同じくする「スーパー7」の部分に着目するとすれば、取引者・需要者において、該商品がケーターハム社の販売に係る商品、又はケーターハム社と何らかの組織的若しくは経済的関連を有する者の販売に係る商品であるものと誤認するおそれが十分にあるものと認められる。

なお、「car magazine」誌平成元年3月号、同年4月号、同年6月号、同年7月号(甲第5~8号証の各1~3)、「くるまにあ」誌平成元年3~9月号(甲第9~第13号証の各1~3、第14号証の1~4、第15号証の1~3)、「カーロード」誌平成元年3月号、同年5月号(甲第16、第17号証の各1~3)、「外車情報ウイズマン」誌平成元年7月号(甲第18号証の1~3)に、原告がバーキン社の日本総代理店として、「BIRKIN 7」、「バーキン7」の商標の付されたスポーツカーの広告を掲載したことが認められる。しかして、原告は、該広告掲載による宣伝の結果、本件商標の出願当時には、「バーキン7」は原告又はバーキン社を出所とするスポーツカーの商標として、取引者・需要者に周知となっており、その商標の要部は「バーキン」であるところ、本件商標は、「バーキン7」の商標の構成のうち、「バーキン」と「7」とを入れ替え、これに誇称表示である「スーパー」を付した態様であり、その要部も「バーキン」であるから、本件商標に接したスポーツカーの取引者・需要者は、原告又はバーキン社を想起するものと解するのが自然であると主張する。

しかしながら、前示広告のうち最も古いものであっても、その雑誌掲載は平成元年3月号であるから、同年9月の本件商標の登録出願までの間に半年の期間しかなく、かかる短期間の広告宣伝によって、「バーキン7」が原告又はバーキン社のスポーツカーの商標として、取引者・需要者に周知となり得たものとはにわかに認め難い。のみならず、本件商標が形式的には「バーキン」と「7」とを入れ替え、これに誇称表示である「スーパー」を付した態様であるといい得ても、その結果としての「スーパー7バーキン」との構成は、前示のとおり、「スーパー7」の部分と「バーキン」の部分とに分離して認識把握され、その「スーパー7」の部分に着目されるに至るのであるから、本件商標の要部が「バーキン」であるとも認め難い。したがって、本件商標に接したスポーツカーの取引者・需要者が、原告又はバーキン社を想起するとの前示主張は採用することができない。

そうすると、審決が、「被請求人(注、原告)が本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、・・・該商品がケーターハム社又は同社と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生ずるおそれがある」とした判断に誤りはない。

3  以上のとおり、原告の審決取消事由の主張は理由がなく、他に審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成6年審判第14091号

審決

千葉県柏市関場町1番10号

請求人 株式会社紀和商会

東京都港区赤坂1丁目3番19号 芳明ビル7階 高村・野上法律特許事務所

代理人 野上邦五郎

大阪府守口市東郷通2丁目5番5号

被請求人 有限会社マルカツ

上記当事者間の登録第2533405号商標の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

登録第2533405号商標の登録を無効とする。

審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

1 本件商標

本件登録第2533405号商標(以下、「本件商標」という。)は、「スーパー7バーキン」の文字を横書きしてなり、平成1年9月26日に登録出願、第12類「自動車用部品、その他本類に属する商品」を指定商品として、同5年4月28日に登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

2 請求人の引用する商標

請求人が本件商標の登録の無効理由に引用する登録第2050176号商標(以下、「引用商標」という。)は、「スーパーセブン」の文字を横書きしてなり、昭和59年6月7日に登録出願、第12類「スポーツカー」を指定商品として、同63年5月26日に登録、その後、平成10年3月31日に商標権存続期間の更新登録がなされ、現に有効に存続しているものである。

3 請求人の主張

請求人は、「商標登録第2533405号商標の登録を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証ないし同第24号証を提出した。

(1)請求人は、引用商標の専用使用権者であり、本件商標の無効審判を請求するについて利害関係を有するものである。

(2)本件商標は、商標法第4条第1項第11号及び同法第4条第1項第15号に該当し、同法第46条第1項第1号により、その登録を無効にすべきものである。

<1>商標法第4条第1項第11号に関し

(イ)「ケーターハム カー セールス アンド コーチワークス リミテッド」(以下、「ケーターハム社」という。)が所有し、請求人が専用使用権を有している引用商標は、本件商標の先出願に係るものであって、両商標は、相類似しており、その指定商品も類似するものである。

(ロ)本件商標は、「スーパー7」の語と「バーキン」の語とからなる結合商標で、文字を全文字につき字体に変化を設けることなくゴシック体で表現したものである。この「スーパー7バーキン」のうちの「7」は、前後いずれも「スーパー」、「バーキン」のような英語読みの片仮名文字であることから考えて、これを通常「セブン」と称呼するのが一般であり、したがって、本件商標は、「スーパーセブンバーキン」と称呼される。

これに対し、引用商標は、「スーパーセブン」の片仮名文字を、全文字につき字体に変化を設けることなく、ゴシック体で表現したものである。したがって、「スーパーセブン」という称呼の点では本件商標の「スーパー7」の語と引用商標とでは全く同一である。

(ハ)本件商標の「スーパー7バーキン」のうち「スーパー」は単に「優れている」若しくは「超えている」との意味を示す語句であり商品の品質を通常の方法で表示する語であるにすぎず、また「7」は単なる数字にすぎないとして、これらの組み合わせである「スーパー7」なる語自体には顕著性がなく、この部分を除外した「バーキン」なる語が要部であるとの考え方も、引用商標である「スーパーセブン」の登録及び使用の背景を全く考慮しなければ生じ得るかもしれない。なぜなら、確かに引用商標については、商標法第3条第1項第6号に該当するとの理由により、その出願は一旦は拒絶理由を受けたことがあるからである。しかし、結局は使用による識別性が認められ、商標法第3条第2項により登録が認められたのである。

すなわち、引用商標の「スーパーセブン」は、「セプン」及び「ロータスセブン」とともに、英国ロータス社の創始者コーリンチャップマンが製作した独特の形状を有するスポーツカーに付けられた名称で、その後英国ケーターハム社がこのスポーツカーの製造販売権を受け継ぎ今日に至っているものであるが、その特徴ある独特の形状ゆえにそのスポーツカーにつけられた名称である「スーパーセブン」も世界的に有名となっている。そして、我が国においても引用商標が英国ロータス社の製造販売権を受け継いだ英国ケーターハム社のスポーツカーに使用され、同社の業務に係る商品を表示するものであるということが該商品の取引者、需要者間に広く認識されていることは、甲第5号証から同第22号証によっても明らかである。

(ニ)このように、「スーパーセブン」なる語は、単なる商品の品質及び数量を表示する語に止まるものではなく、英国ケーターハム社がスポーツカーに使用することにより、’その使用による顕著な識別性を有している特別の語なのである。したがって、本件商標の「スーパー7パーキン」の「スーパー7」の語も、本件商標がその指定商品の区分が「第12類」で指定商品が「自動車用部品、その他本類に属する商品」であることから、単に商品の品質や数量を表示する語に止まるものではなく、一つの重要な要部となっていることは明らかである。

(ホ)本件商標の指定商品の区分が「第12類」で指定商品が「自動車用部品、その他本類に属する商品」であることは、引用商標の指定商品の区分が「第12類」で指定商品が「スポーツカー」であることとほぼ同一で類似しており、しかも実際には、本件商標が、「スーパーセブン」と酷似し被請求人の関連会社である有限会社マルカツが販売しているスポーツカーに使用されていること(甲第23号証及び同第24号証)から、本件商標の指定商品と引用商標の指定商品とは販売先又は需要者が同一で、類似する商品である。

<2>商標法第4条第1項第15号に関し

「スーパーセブン」との名称を有するスポーツカーが、英国ケーターハム社が英国ロータス社からその製造販売権を承継したスポーツカーであり、同社の業務に係る商品であるということが、該商品の取引者、需要者間に広く認識されていることは、甲第5号証から同第22号証により明らかである。そして、本件商標が、「スーパーセブン」と酷似し被請求人の関連会社である有限会社マルカツが販売しているスポーツカーに使用されていることから、本件商標は他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であることは明らかである。

4 被請求人の答弁

被請求人は、「本件の審判請求は成り立たない〕との審決を求めると答弁し、その理由を次のように述べた。

(1)本件審判請求は、

<1>本件商標は引用商標に類似し、よって商標法第4条第1項第11号により登録を受けることができない。

<2>本件商標は英国ケータハム社が英国ロータス社から製造販売権を継承した英国ケータハム社の商品の名称である「スーパーセブン」と酷似し、本件商標に係る商品と混同を生じ、よって商標法第4条第1項第15号により登録を受けることができない、というものである。

しかしながら、上記はいずれも理由がない。

(2)商標法第4条第1項第11号について

<1>商標は商品の識別標識であるから、1個の商標は文字・図形・記号・色彩等が組み合わされたものである場合においても全体としで識別商標として一体をなすものであり、したがって、商標類否の判断は対象を全体的に観察した上でなされることを原則とする。

<2>しかして、引用商標は、外観は片仮名太ゴシック文字で表された「スーパーセブン」の文字を全て同書体、同大で横書きしたものであるのに対し、本件商標は「スーパー7バーキン」と横書きしたものであって、両者が類似しないことは明らかである。

また、称呼も、引用商標が単なる「スーパーセブン」であるのに対し、本件商標は「スーパーセブンバーキン」であり、両称呼が類似しないことは明らかである。

かつ、両者は、格別の観念を生ずるものではないので、これ又類似しないことは明らかである。

<3>加えて、引用商標は、請求人も自認するとおり「スーパー」なる記述的用語と、単なる数字である「セブン」とを組み合わせたにすぎないものであるためそれのみでは識別力を有しないとして一旦拒絶理由が発せられたものである。請求人は、使用による顕著性が認められ登録が認められたとするが、換言すれば、現実の請求人の使用形態という極めて限られた表現形態のものでのみ顕著性(識別力)が認められたものである。

これに対し、本件商標は、極めて識別力の高いある「バーキン」なる語を、それ自体は識別力の乏しい「スーパー7」という語に組み合わせたものであり、「バーキン」の部分に要部が存在することは明らかである(このことは、本件商標が、商標の構成「バーキン」なる商標登録第2464667号の連合商標として登録されていることからも分かる)。

<4>よって、両者は全体観察において類似せず、また、その要部も異なり、到底これらを類似するものと解することはできない。

(3)商標法第4条第1項第15号について

甲第5号証ないし同第22号証においては、いずれも、「ロータスの名作」という文字と「スーパーセブン」なる自動車の商品名が記載されているのみであり、英国ケーターハム社が製造販売権を継承したことはもとより、「スーパーセブン」が同社の商品出所表示として周知されたとも同書証によっては解し得ない。

前記のとおり、本件商標は「スーパー7バーキン」であって、「バーキン」の部分をもって自他商品識別力を持つ要部と解すべきものであるから、同商標の使用によりケータハム社の商品との混同を生ずると解する余地はない。

(4)よって、本件請求は理由がない。

5 当審の判断

よって判断するに、引用商標に関してその出願審査の経過について職権により調査したところによると、特許庁審査官は「本願商標は、商品の品質を誇称表示するための語として普通に用いられる『スーパー』の文字と商品の記号、符号として用いられる算用数字『7』を英語読みしたものと理解されるにすぎない『セブン』の文字との組み合わせになるものであるから、このようなものをその指定商品に使用しても需要者をして何人かの業務に係るものであることを認識させえないものと認める。したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第6号に該当する。」旨の拒絶理由を通知し、その後、「本願商標は、英国ロータス社若しくはケーターハム社の取扱の『スポーツカー』に使用され、同人の業務に係る商品を表示するものとして該商品の取引者、需要者間に広く認識されている商標と称呼上類似すること明らかな文字よりなるものである」旨認定した。そして、願書記載の指定商品が「スポーツカー」に補正されて、引用商標は、前記の登録日に商標登録されたものであることが認められる。

そして、以上の事実と請求人が提出した甲第5号証ないし甲第22号証を総合勘案すると、引用商標は、「スポーツカー」に使用された結果、本件商標の登録出願時である平成1年9月26日には、英国ケーターハム社の商標として、取引者、需要者間に既に広く認識され、著名になっていたものと認められる。

ところで、本件商標は、その構成前記のとおり「スーパー7バーキン」と書してなるものであるところ、これらが全体として特定の熟語を構成しているものとは理解し難く、かつ、「スーパー7」と「バーキン」とが常に一体不可分のものとして把握すべき必然性も見出せないものである。そして、前半部分の「スーパー7」は、「スーパーセブン」と称呼するものと認められる。

そうとすると、被請求人が本件商標をその指定商品に使用した場合、これに接する取引者、需要者は、前記認定のとおり、「スポーツカー」に使用されて広く認識されている引用商標と称呼を同じくする前半部分の「スーパー7」に着目し、該商品がケーターハム社又は同社と何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかの如く、商品の出所について混同を生ずるおそれがあるものと判断するのが相当である。

してみれば、本件商標は、商標法第4条第1項第11号に該当するか否かについて検討するまでもなく、同法第4条第1項第15号に違反して登録されたものであるから、同法第46条第1項の規定により、その登録を無効とすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成10年9月7日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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